疲労とは 疲労は「疲れ」とも表現され、痛みや発熱と同様に「これ以上、運動や仕事などの作業を続けると体に害が及びますよ」という人間の生体における警報のひとつです。疲労は、人間が生命を維持するために身体の状態や機能を一定に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)のひとつとして、痛みや発熱などと並んでそれ以上の活動を制限するサインとして働いています。
疲労の定義 日本疲労学会では、
「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義されています。疲労は、心身への過負荷により生じた活動能力の低下のことを言い、
思考能力の低下や、刺激に対する反応の低下、注意力の低下、注意散漫、動作緩慢、行動量の低下、眼のかすみ、頭痛、肩こり、腰痛などがみられます。
疲労の原因 自律神経の中枢部では、身体の器官や組織の調節を行い、絶えず生命維持のための身体機能を一定に保っています。運動時には、運動強度や体調に応じて呼吸や心拍、体温などの機能の調節を行っており、身体へかかる負荷に合わせて生体機能のコントロールを行う自律神経の中枢も働き続けます。運動によって体にかかる負荷が大きくなるほど、自律神経の中枢にかかる負荷も大きくなり、自律神経の中枢がある脳がダメージを受けることで疲労が起こるとされています。
疲労を起こすのは
活性酸素による酸化ストレスで、神経細胞が破壊されるからであると考えられています。運動などのエネルギーをたくさん使う活動では、酸素が多く消費されるとともに活性酸素も多量に発生します。活性酸素が発生すると、活性酸素を分解して体内から除去する抗酸化酵素が働くようになっていますが、発生する活性酸素の量が抗酸化酵素の働きを上回ると自律神経の細胞や筋肉が活性酸素によって攻撃されて疲労へとつながります。
加齢や紫外線を浴びることは
活性酸素の影響を受けやすくなるため、疲労が起こりやすくなります。睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群も疲労を蓄積させる原因となることが言われています。
乳酸は疲労物質か? 「乳酸は疲労物質」という考え方がされていましたが、現在では乳酸が疲労を起こす物質であるという考えは間違いであるとされています。疲労した筋肉では乳酸の濃度が高くなり、筋肉のパフォーマンス低下がみられるけれども、乳酸がパフォーマンスの低下をもたらすのではないとされています。
最新の研究では、高負荷の運動時に、糖質がエネルギーとして使われる際に乳酸が産生され、筋肉の細胞のエネルギー源として再利用されることがわかっています。運動中の脳内でも神経細胞のエネルギー源として乳酸が働くことも確認されています。
疲労と病気 疲労によって身体の機能を一定に保つ恒常性が乱れると自律神経失調症の症状がみられるようになります。疲れが蓄積すると防衛反応としてステロイドホルモンが分泌されます。ステロイドホルモンが多量に分泌されると、血管の老化による動脈硬化やインスリン抵抗性による高血糖・肥満などのリスクが高まり、
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、メタボリックシンドロームにかかりやすくなって心筋梗塞や脳梗塞などの原因となります。ステロイドホルモンは免疫を下げる作用もあり、さらに疲労が蓄積することで免疫系が働きにくくなり、
がんの進行から身体を守る防衛機能も低下します。自分でできる疲労の回復方法 1.睡眠
良質な睡眠をとることが疲労回復に最も効果的であるとされています。1日3食のバランスのとれた食事を摂り、生活リズムを整えること、食事は眠る時間の3時間前に済ませておき、眠る1~2時間前に8分程度、38~40度のぬるま湯にみぞおちの辺りまでつかることが質のよい睡眠を招きます。
2.食事
⑴イミダゾールジペプチド(イミダペプチド) 疲労の原因となる活性酸素による酸化ストレスを軽減させる
(抗酸化作用)、イミダゾールジペプチド(イミダペプチド)を効果的に摂ることもよいとされています。
イミダゾールジペプチドは鶏の胸肉やマグロやカツオの尾びれに近い筋肉に含まれています。疲労を自覚している健常成人207名 (日本) を対象に鶏胸肉由来のイミダゾールジペプチド含有ドリンクを8週間摂取して効果を調べた研究から、
1日200mgのイミダゾールジペプチドを摂ることが疲労を軽減することがわかっています。
イミダゾールジペプチド200mgは
鶏の胸肉100gに含まれています。鶏の胸肉の調理法としては蒸す、茹でる、焼くが適しており、直火での長時間のグリルは成分が変質するので適していません。鶏の胸肉を蒸す、茹でるなどにより出た水分もスープなどで摂ると水に溶けたイミダゾールジペプチドを摂取することができます。
⑵ビタミン ビタミンは、組み合わせることで互いの働きを助け合ったり、効果が高まったりします。例えば、ビタミンEとビタミンCを一緒にとることによって抗酸化作用が高まり、細胞膜や生体膜の維持効果がアップします。またビタミンCは、鉄分の吸収を助け、体内においても鉄分が有効に利用されるように働くことが知られています。それぞれのビタミンの特性を活かし、ビタミンがより効果的に吸収できる組み合わせを工夫して活用しましょう。
疲労回復の決め手は、ビタミンB群 栄養素からエネルギーを生み出すエネルギー代謝「TCAサイクル」にはビタミンB1やB2、B6などのビタミンB群が欠かせません。特に重要なのは、主要なエネルギー源である炭水化物を分解してサイクルに取り込む過程で必要とされるビタミンB1です。ビタミンB1は発熱や過労時に多く消費されるため、疲れたときには不足した分を補って、エネルギー代謝を助けてあげましょう(図1・図2参照)。
ビタミン摂取の理想的な組み合わせ
ビタミンE・ビタミンC |
抗酸化作用がアップする |
ビタミンB1・ビタミンB6・ビタミンB12 |
お互いの働きを高める |
ビタミンB2・ビタミンB6 |
ビタミンB6がビタミンB2の働きを高める |
ビタミンC・鉄 |
ビタミンCが鉄の吸収を助ける |
ビタミンD・カルシウム |
ビタミンDがカルシウムの吸収を助ける |
3.適度な運動 ストレッチなどの軽い運動は、疲労回復に効果的です。ストレッチは、縮んだ筋をゆっくり伸ばすことにより、血流を良くし、その結果、酸素および栄養補給が筋の隅々まで行き渡り、疲労の回復を早めます。
筋肉を使わないでいると筋力が低下し、疲れやすくなります。疲れにくいカラダ作りという点でも適度な運動は必要です。
また、よい睡眠に繋がるだけでなく、ストレスの解消にも効果があり、気分もリフレッシュされます。
また、
ラジオ体操を間違いなくしっかりすることも疲労回復や病気予防に効果絶大です。ラジオ体操には、全身の400以上の筋肉をまんべんなく使うといわれています。代謝をアップさせて血液やリンパの流れを促進させることで、全身のコリや疲労も解消していきます。
鍼灸院での治療 鍼灸の治療は疲労回復に効果があります。
鍼灸治療は筋肉を緩めることが得意で、他覚的にも直後効果として筋肉が柔らかくなることを触知できます。肉体的な疲労はつまり筋肉の緊張なので、鍼灸治療を受けることは疲労回復に大きな効果があります。首や肩がこる、腰がスッキリしない、目が疲れるなどの症状は改善を治療直後に実感していただけることが多いです。
また、鍼灸の治療は自律神経の調整に効果があります。
自律神経の働きを整える(主に副交感神経の働きを優位にさせる)ことで、睡眠の質が高まります。また、胃腸の調子が悪い・手足が冷える、などの症状も自律神経の働きから受ける影響が大きいので、改善の方向へ向けることが出来ます。
東洋医学である鍼灸療法には
「未病を治す」という概念があります。つまり、病気になってしまう前に心身の不調を治しましょう、という考え方です。鍼灸医学は
自然治癒力を高める治療方法なので、免疫力を高めることでさまざまな症状の予防ができます。つまり、症状が悪化しないように、そして病気にならないように治療することが一番大事です。気になる症状が悪化してしまう前に一度ご相談ください。